経理の敵。
みなさま、こんばんは。
もう時効かな、と思うので、今日は昔お勤めしていた会社での思い出話などをひとつ。
大学を卒業してすぐ入社した会社で私は財務部に配属されました。
いわゆる「経理」のお仕事です。
大学の専攻とは全く畑違い、経理の知識など皆無でしたから、入社当時はずいぶん戸惑ったことを覚えています。
なにしろ、簿記の知識もまったくなくて、おまけに典型的なめんどくさがり屋で、細かいことは大キライ、内心、「向いてないなあ」とよく思いました。
些末なことが大事な部署なのに、どうにも気持ちが入らなくて、ひとつ年上の先輩に、
「全身の血をA型に入れ替えろ!」
と言われたこともあります。(←O型なのでね・・・)
(誤解されやすいのですが、経理にいたといっても、小切手一枚、手形の一枚も切ったことはありません。
そういうことは財務部内でも別の課である出納課の仕事でしたので、在職中、振込用紙の一枚ですら、触ったこともありません。)
でもまあ、何年か経理課に座っていると、最初はさっぱりわからなかった「複式の簿記」というものに感覚がなじむようになるものでして(←向き不向きがあるのでしょうか、どうしても「複式簿記」が身につかない人もいます)、そうなると、誰でもそれなりに経理っぽくなります。
けれども経理の仕事というのは独特で、他の部署の人からはなかなか「わかってもらえない」ことが多々ありました。徹底して避けられることも。
今日はそんな思い出の中から、私が個人的に「経理の敵」認定した人やモノについてお話したいと思います。
1.「少額だからどうでもいいやん?」っていう人。
たとえば。
「この伝票、間違ってますよ、切り直してください。」
と別の課の担当者にお願いした時なんかに、
「えー、500円分?いいやん、それくらい。俺の財布から出しとこか?」
とか言う人がいます。わりといます。
そんな時、経理としては、
「まあまあ、そう言わずに、そこをなんとか。」
などと言いつつも、かなりの高確率で、心中、
「わかった。今度5千万円合わへんかったら、あんたのとこに来るわ。あんたの財布から5千万円出してな。」
と、むっとしてします。
要するに、経理にとって問題なのは500円か5千万円か、その金額の多寡ではないのです。
ただひたすら、
「合っているのか、いないのか」
が重要、なのです。
仮に、「1億1千万円合わない」、なんてことがあったとしましょう。
でも金額が大きければ、いっそ「めど」がつきやすかったりするのです。
「1億1千万・・・ああ、A支店の6千万と5千万の伝票が入ってないのかも。支払いが遅い取引先があるからな・・・」
なんて風に。
むしろ「3円合わない」「8円合わない」ことの方が、経理にとっては心底恐ろしい。
これは単純な計算ミスなのか。
それとも消費税計算の間違いを誘発するような、イレギュラーな伝票があるのか。
あるいはそもそも「3円」や「8円」という伝票が存在するのか。
考えられる可能性は山ほどあって、いくら会計システムが電算化されていようとも、その原因を探るのはかなりの手間暇がかかってしまうものなのです。
もしもあなたが経理の担当者に向かって、
「いいやん、500円くらい。誤差誤差!」
な~んて言いたくなったら。
きっと「むむ。」と思われてしまいますから、その言葉はぐっと飲みこみましょう。
会社の中で余計な摩擦を引き起こして得なことなんて何ひとつありません。
伝票を切り直せと言われたら、さっさと切り直してあげてくださいね。
意味もなくそんなことを依頼する経理は、ひとりもいません。
2.海外伝票
これは腹立つ。
もうね、「腹立つ」としか言いようがありません。
とにかくもう、大っキライでした。
海外の人って、なんであんなに、
字が汚いの???
そもそも数字が読めないって致命的。
キレイとか汚いとかの次元ではなくって、数字の大きさすら不ぞろい。
「領収書の字くらいキレイに書いてよー!」って何度絶叫しそうになったかわかりません。
ベトナムやカンボジアなどの領収書はそもそも字も読めないし・・・
回ってくるたびに「きぃっ!」ってなってましたが、思えばそんな伝票をそのまま回してくる海外業務部が「敵」だったのかもしれません。
3.秘書課
苦手だったなあ、秘書課・・・。
なんだろう、いつも役員とべったり一緒にいるせいでしょうか、なんだか偉そうな人が多いんですよね。
まさに「虎の威を借りる狐」って感じ。(←偏見です)
「間違ってます、切り直してください。」
って伝票を持って行ったり、取引の中身を聞きに行ったりすると、必ず言われたものでした。
「これ、社長の伝票なんですけど?」
って。
でも、経理としては、
「だから何?」
という感想しかないのです。
社長だろうが会長だろうが、会計諸法規を遵守しなければならないのは同じこと。
どうして社長の伝票だったら例外になると思えるんだろう。
いつも心から不思議だったものです。
もっと言えば、社長を始め、役員に係る支出の方が国税局の目につきやすく、細かくつつきまわされるものですから、最もクリーンに、疑いなくしておきたいのが経理の本音です。
全国の秘書課のみなさん。
経理が何か言ってくるのは、別に支出の中身に文句があるわけではありません。ケチをつけているわけでもありません。ただ単純に取引内容をクリアにしておきたいだけです。伝票くらい素直に切り直してあげてくださ~い。
4.監査法人
監査法人・・・この人たちが来ると、日常業務がかなり滞りました。
もちろん、監査を受けなければならないのは法律で決まっているので仕方ないんですが、とにかく面倒で面倒で。
ただでさえ忙しい決算期。
有価証券報告書を作成しつつ、その数字のひとつひとつが正しいかどうかをひたすら証明していかなくてはなりません。
たとえば私の勤めていた会社では、原価の台帳だけでもロッカー数台分を丸々塞いでしまうほどの量があったのですが、もちろんその原価台帳に記載された数字のひとつひとつには領収書やら請求書が存在していますよね?(←保管期限は7年)
監査法人から派遣されてやってくる会計士のみなさんは、抜き打ちでそれらの書類を出せ、とまで言ってきます。
本社で支出した経費分なら、本社内に保管していますから、すぐに出せたとしても(←実際に出すのは大変ですが。何しろすごい量だから)、それが支店や営業所に保管してある書類だと、わざわざそこに問い合わさなくてはなりません。
会社中の倉庫をひっくり返す勢いで、あれもこれも何もかもを丸裸にするような監査。
物腰は「お願いします~」と柔らかなのですが、「あれ持ってきてー、この書類出してー」って言われるたびに仕事の手を止められて、一日中、イライラしたものでした。
(脱線しますが、最近、有価証券報告書の虚偽記載がニュースを賑わせているようですが、正直に言って、監査法人がそれを知らなかった、わからなかった、というのは納得できません。
知っていたのなら会社と共犯だし、わからなかったというのなら、監査法人としてはあまりにも無能です。
ただ、現行の会計監査には、今回のような問題が噴出しやすい背景があるようにも思えます。
なぜなら、監査法人にその仕事の対価を支払うのは、監査を受ける会社だからです。
つまり、監査を受ける会社は、監査法人にとって、「お得意様」なのです。
監査法人に支払われる対価は、私が勤務していた会社でも年間数千万円。
今、ニュースで騒がれている会社なら、もっと巨額になるはずです。
それほど巨額なお金を払ってくれる取引先に対して、監査法人側が強気な態度で臨めるとは思えません。
つまり、監査を受ける側の方が強い立場であって、グレーゾーンの取引に関しては、いくらでも監査法人側を丸め込める余地があり、株主の利益が二の次になってしまうリスクがあるような気がします。
監査に係る費用は、証券取引所など別の組織にプールして、そこから監査法人に支払われるようにし、監査を受ける会社と監査法人との間の力関係をもっとフラットなものにするよう、工夫が必要なのではないかと思います。知らんけど。)
5.国税局
監査法人による監査ほどの頻度はありませんが、国税局による査察ももちろんありました。
これがねえ・・・すごーい威圧感で、ほんとにコワかったです。
前述したように、監査法人は結局のところ、こちらが「お得意さま」。
なので、まあ、ちょっとくらいまずいことがあったとしても、いくらでもフォローのしようがあるわけですが、相手が国税局となるとそうはいきません。
なにしろ、最初から
「追加でがっぽり税金を巻き上げてやる!」
という意気込みでやってくるのですから、経理としては戦々恐々、これほど恐ろしい相手はありません。
私の上司は常日頃、
「節税はしなくてはならない、でも脱税はダメ。絶対。」
が口癖の人でしたから、それほど恐れることはなかったのですが、「むしり取れる税金がない」となると、それはそれでどんどんご機嫌が悪くなっていくのが国税局というものでして。
そりゃそうだろうな、とは思うのです。
だって、追加で税金を取ることが、彼らの仕事上の評価につながるんですものね。
なので、調査に血眼になるのもよくわかります。
でも、思ったような結果が出ないと室内で怒鳴り散らしたりするのはどうなのかしら。
ほんっと、お役人ってイヤだなあ、としみじみ思ったものでした。
毎日機嫌よく働いていたように記憶しているのですが、こうして思い出してみると、意外にもたくさんの「敵」がいたんだなあ、とちょっとびっくり。
おそらくどの会社でも経理は、
「細かい」
「うるさい」
「めんどくさいやつら」
って思われているんだろうなと思います。
でも、しょうがないんですよ、ほんとにしょうがないんです。
経理にあれこれ指図されて、「むっ」とすることがあったとしたら、どうか
「言ってる方もイヤなのかもしれないな」
って思ってみてください。
とりあえず、私は二度と経理のお仕事だけはごめんです。ほほ。