国立文楽劇場で「義経千本桜」を観ました。

みなさま、こんばんは。

先日、知人に誘われて、国立文楽劇場で「文楽若手会」を観劇してきました。

 

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文楽

大阪文化のひとつではありますが、私が前に観劇したのは子どもの頃・・・。

 

ついていけるかしら、と不安にかられつつも、今回はなんと、講演前の楽屋や舞台裏を案内してもらえるという破格の特典つき!(←知人が若手会を応援しているご縁で。)

こんな機会を逃してなるものか~、とウキウキで出かけてきました。

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大阪市中央区にある国立文楽劇場は大阪地下鉄、「日本橋(にっぽんばし)」駅7番出口からすぐ、徒歩1分のところにあります。

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カラフルな興行のぼりを見ると、ウキウキ感とワクワク感がMAXになります。

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ロビーには巨大なお人形の頭が・・・。

これ、使うことあるのかな・・・まさかね。

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道頓堀界隈で有名なくいだおれ人形も・・・

大阪人にはあまりにも馴染みが深すぎて、つい、

「いやぁ、久しぶりやねえ。こんなとこで何してはるん?」

と声をかけたくなります。

 

ロビーで知人たちと集合したのは開演1時間半前。

そこから2階の楽屋に案内してもらいました。

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楽屋のお部屋の入り口にはそれぞれ個性的な紋入りの暖簾が。

どれも素敵。

ちょっと渋めの色合いがたまりません。

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舞台の上から客席を見たところ。

この日出演なさる人形師さんや太夫さんたちがあちこちで練習していて、誰もいない客席にその声が響いていました。

舞台の裏にはいろんなセットや小道具がスタンバイ、たとえば人形師さんたちが履く下駄なんかも見せていただきました。

下駄にはいろんな高さがあって、その底にはそれぞれ「藁草履」を履かせてありました。滑りやすくするため、また音を立てないための工夫なんですって。

どれも興味深くて、みなさまにもご覧いただきたかったのですが、夢中になってたから写真はないの・・・ごめんね!

 

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廊下では今日登場する役者さんたち、いえ、お人形さんたちが待機中。
首の後ろを釘で「ひっかける」ように立たせておくんだとか・・・それを聞いたときには「かわいそう・・・」とすでに感情移入が始まっておりました。

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相変わらず悲惨なくらい、写真が下手・・・ryoさんについてきてもらえばよかった(←わがまま)

実物のお人形さんたちはほんとにほんとに素敵なんですから!

衣装はもちろん全て正絹、金糸の刺繍も艶やかで、髪飾りの細工なんてものすごい細かさ!

「お金かかるんですよ~」と人形師さんは笑って説明してくださいましたが、お人形の着付けはその人形師さんたちが自ら行うそうです。

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お人形を持たせてもらって大喜びのマミーさん。

背中の後ろから左手を入れて、お人形の頭を下から支えたとき、その重さにびっくりしました。

お人形の重さは約3キロ。

こんな重いものを片手で支えながら演技をするってどんなに重労働でしょうか・・・。

筋トレしないと・・・と思わず口走りましたら、人形師さんは

「筋肉をつけた腕で人形は使えへんのです。やわらかい演技をするにはガチガチの筋肉がついとったらあかんのです。」

と笑っていらっしゃいました。

なので人形師さんたちは肩こりや腱鞘炎がデフォなんですって・・・大変だろうなあ。

 

で、今回の演目は「義経千本桜」と「妹背山婦女庭訓(道行恋苧環)」。(ちなみに上の写真で私がうれしそうに持っているお人形は道行のお三輪さんです。)

 

義経千本桜」からは三段目の

「椎の木の段」

「小金吾討死の段」

「すしやの段」

 

思うに「義経千本桜」って、「敗者に心寄せる」物語なんですね。

壇ノ浦で活躍しながら兄に疎まれ居場所を失くしてしまった義経、そして源氏に敗れて一族郎党、波間に消えていった平家の面々。

勝ち誇る勝者の側よりもむしろ、散っていった敗者の方にこそ哀れを感じ、同情せずにはいられない・・・この物語が大阪で生まれ、ことさら愛された背景には、大阪人のそんな気質が強く影響しているように思います。まあちょっと「ひねくれた」ところが多いんですよね、大阪人って。判官びいきの強さときたら、他の地域の方には異常に感じられるほどかもしれません。(今回上演されたのは「三段目」だったから九郎判官義経は一回も出てこなかったけど・・・)

 

で、今回の上演で、特に心に残ったのが「すしやの段」。

平重盛に恩義を感じていた弥左衛門はその長男、維盛卿を匿っているのですが、弥左衛門の息子、「いがみの権太」はあろうことか、維盛卿を殺し、その妻子を鎌倉からの追手に差し出してしまいます。(←後々、それは誤解とわかるのですが。)

逆上した弥左衛門は息子「いがみの権太」を刀で一刺し、苦しむ権太に駆け寄る母・・・のシーンがすごい。

 

憎いながらも悲しさの母は思はず駆け寄って

「コリヤ天命知れや、不孝の罪思い知れや」

と云ひながら、先立つものは涙にて伏し沈みてぞ泣き居たる

弥左衛門歯噛みをなし

「ヤア泣くな女房、何吠えるのぢや。不憫なの可愛いのと云うて、こんな奴を生けて置くは、世界の人の大きな難儀ぢやわい。門端も踏ますなと云ひ付け置いたに内へ引き入れ、大事の維盛様を殺し、内侍様や若君をよう鎌倉へ渡したな。モゝゝゝもう腹が立つて、涙がこぼれて胸が裂けるわい。三千世界に子を殺す、親といふのは俺ばつかり、あつぱれ手柄な因果者にようしをつた」

と抜身の柄砕くとばかりに握り詰め、刳りかかるも心は涙

 

この場面を見たとき、私はすぐに、つい最近世間で大騒ぎになったニュースを連想してしまいました。

みなさまもそうでしょう?

引きこもりに家庭内暴力。この上、世間や他所様に迷惑をかけてしまったら・・・と恐れた父親が息子を手にかけたというあの事件。

その悲しい、酷いニュースとよく似た事情が舞台の上で繰り広げられているのを見て、なんとも言えない気持ちになりました。

もちろん、「義経千本桜」が生まれた当時と今では時代が違いますから、最悪の事態を招いたきっかけも違います。

どれほど悪事を繰り返していたとしても、我が子とはかわいいもの、弥左衛門もよもや息子を殺そうなんて、思ってもみなかったに違いありません。

けれどもそれが「忠義に背く」となれば、話は別です。

どんなに子がかわいかろうと親子の情が深かろうと、弥左衛門は権太を殺さなければならなかったのだろうし、世間もそれを「あっぱれな心がけ」と称賛したのでしょう。なにしろ、個人の「人権」なんて、その概念すらなかった時代ですから。

 

では、現代ではどうなのか。

果たすべき「忠義」なんて、もうどこにもありはしませんが、代わりのお題目は「世間様に迷惑をかけない」ということでしょうか。

 

世間に迷惑をかけるくらいなら、親が子を殺すことも了とする、そんな風潮が現代日本に残ってはいないでしょうか。

 

権太の母親が泣き崩れる姿を観客席から見上げながら、

「変わってない、この国の根っこの部分は、この文楽人形が生まれたころから、なんにも変わっていないんだ」

としみじみと思いました。

 

人権や個人主義といった、新しい概念が日本に入ってきてから百有余年、それでも私たち日本人は未だ封建社会に生きていたころの美徳や倫理観を引きずりつつ生きているということなのでしょう。

そのことのすべてが悪いとは思いません。

そういった美徳や倫理観なしでは、私たちはそもそも日本人とは言えなくなるし、こうして文楽や歌舞伎などの芸能に感動することすらできなくなってしまうでしょうから。

 

でも、それでも思うのです。

子どもを殺すことで「親の務めを果たした」と言わんばかりの論調が今も繰り返される風潮は、なにかおかしいんじゃないのかなって。

それは、日本が近代国家であることを放棄するのと等しい考え方ではないのかなって。

 

文楽や歌舞伎をはじめとする、古典芸能の中にだけ存在する考え方や美徳があってもいいんじゃないかな。

舞台の上でスポットライトを浴びて生き生きと躍動するお人形さんたちを見ながら、そんなことを考えました。

 

文楽

一事は公金からの支援が断たれて、存続の危機にありましたが、今回の公演では客席はほぼ満席、観劇してみれば、その魅力はちっとも古びていなくて、今も昔も人の心の機微には共通点が多いのだという感慨を深くしました。要するに、すご~くおもしろかったです!

ちなみに今度の金・土曜日には東京・国立劇場で同じ演目が見られます。

www.ntj.jac.go.jp

興味のある方はぜひお出かけくださいね。

・・・若手会なので、チケットもお安いですよ・・・な~んて「安い」アピールをしちゃうところが、私が典型的な大阪人である所以です。ほほ。