矢川冬「もう、沈黙はしない…性虐待トラウマを超えて」を読みました。

その本のことを知ったのは、わっとさまのブログを読んだからでした。

 

www.watto.nagoya

 

「もう、沈黙はしない…性虐待トラウマを超えて」矢川冬:著

 

 「実父から受けた性的虐待」がひとりの女の子に与えた影響と、その後の人生についての克明な記録。

この本に書かれていることが、「ほんとうにあったこと」だということに、いたたまれなさを感じずにはいられません。

 

父親から性的虐待を受ける子どもの話を取り上げた本といえば、ほら、

 

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天童荒太氏の「永遠の仔」が有名ですが、こちらも「気の滅入る」本でした。

実の娘に性的虐待を繰り返していた男を殺害した犯人は誰か?という謎が作中のキーポイントになっているわけですが、これほど「同情のできない」被害者もいない、と思いながら読んだ記憶があります。

「犯人、別に誰でもいいやん。殺されて当然やん。よかったよかった。」

とつくづく思いました。

物語を貫く「謎」の解明よりも、虐待を受けて育った登場人物たちの行く末が気になって読むのをやめられなくなった作品です。

 

他にも子どもへの性的虐待を題材にした本と言えば、小説ではありませんが、

萩尾望都作「残酷な神が支配する」全10巻もすごい。

読んでいると、主人公の恐怖や混乱にこちらまで取り込まれてしまいそうになります。

それでもさすがは「少女漫画界の偉大なる母」と呼ばれる天才・萩尾望都だけあって、全編まるで神話の悲劇のような迫力と、イェイツの詩のような抒情性ある作品になっています。

 

どちらも一読の価値ある作品ですが、共通点は、

「子どもに対して性的な虐待を繰り返す、卑劣な人間が殺害される」

ということ。

 

けれどもそれで登場人物たちが苦悩から解放されるわけではありません。

むしろ子どもたちは、加害者の死によって、一層の混迷と混乱を深めていき、死してなお被害者を苦しめる性的虐待の恐ろしさを読者に痛感させます。

しかしながら、同時にそこが物語らしい「都合のよさ」を感じさせてしまう部分でもあります。

 

現実問題として、性的虐待を受けている子どもたちは、そう簡単に解放されたりはしません。

人生100年時代、子どもが幼ければ親だってまだまだ若いことでしょう。

あっさり死んでくれるはずがありません。

今日も、この瞬間も、抵抗のすべもなく、卑劣な性犯罪に踏みにじられている子どもがいるのかもしれないと思うと、とても口には出せないような、激しい憤りを感じます。

 

矢川冬氏の「もう、沈黙はしない…」を読むと、いつ終わるとも知れない悲惨な夜を過ごす子どもの痛々しさに言葉を失います。

ちいさな子どもがこんな痛ましい思いを抱えつつ朝を迎えるようなことがあっていいのでしょうか。

誰にも理解されず、誰にも助けを求められず、自分と同じ境遇の人間がいないだろうかと図書館をさまよう幼い頃の筆者。

つらいトラウマに苦しみながらも必死に勉学に励み、自立して自身を養い、今、同じような境遇にある人を救おうと一身を投げ打ちシェルター開設を目指す・・・。

 

わっとさまが「勝手に協力しちゃえ!」と決意なさった気持ち、よーくわかります。

 

私にはなんにもできませんが、

「この本が日本のすべての図書館に置かれるのが私の夢です。お近くの図書館に注文票を出していただけたら・・・」

というのが筆者の願いだと知って、私も近所の図書館(大阪市立図書館のサテライト図書館である区の図書館)に注文票を出しに行きました。

これまでにも注文票を出したことは何度もありましたし、注文票を出せば購入してくれるのが普通でしたので、この時、私は大阪市立図書館をまったく疑ってはいませんでした。遅くとも数か月の後には、この本が大阪市立図書館の蔵書になるだろうと。

 

それから約半年。

今回はずいぶん時間がかかってるなあ、と思っていたら、やっと「用意できました」の連絡が。

さっそく図書館まで取りに行きました。

そうしたら、なんだか仰々しいビニール袋に入れられた本が出てきました。

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なんと・・・「大阪立図書館」から借り出しの本でした・・・。

 

もうねえ・・・ショックでしたよ・・・。「は?」って感じ・・・。

 

いや、そこは買おうよ・・・市でも。

こういう本こそ税金で買うことに意味あるんちゃう?

普段、「府市合わせ」(大阪府大阪市は仲が悪いことを揶揄した造語です)とか言うてるやん?他の県ならいざ知らず、大阪府大阪市、仲悪いんやろ?もっとお金のかかるビルとか工事とかでも張り合って二重に税金かけてるやん。(←あかん)

なに急に協力し合ってんのよ!こういう本こそ買いぃや!ベストセラーやからってどうでもいい本、何十冊も買うてるくせに!(←どの本とは言いません。)

 

と思ったけれど、まさかカウンターでそんなことをまくしたてるわけにもいかないので、しょぼーんとしながらすごすごと帰ってきました。

読んだけどさ。府立図書館の本。

なんか釈然としないわー。

 

ということで、結局私も購入しました。

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一応、大阪市立図書館の名誉のために弁解すると、おそらくこの本、「オンデマンド印刷(注文印刷)」なので購入が難しいのだろうと思います。

「先払い」っていうのがね・・・図書館のシステムにはないのではないだろうかと・・・。

なので、上の本のうち、1冊を市立図書館に寄贈してきました。

わっとさんのブログを読んでいると、寄贈の度に、あれこれ書類を書かされていらっしゃるので、私もそのつもりで行ったんですが、

「取り扱いはこちらに一任していただけますか?」

と口頭で聞かれて「はい。」って言ったらそれでOKでした。簡単簡単。

寄贈したのがつい先日のことなので、まだ蔵書検索にはひっかかりませんが、そのうち大阪市立図書館でも借りることができるようになると思います。

 

で、残りの1冊ですが。

そちらは近所の中学校に寄贈することにしました。

 

こういう言い方は誤解を受けるかもしれませんが、「もう、沈黙はしない…」の筆者、矢川冬氏はおそらく、生まれ持っての知的能力が高い人だろうと思うのです。 

しかしながら誰もがみんな矢川冬氏のように「賢い」わけではない・・・。

家庭環境に恵まれていない児童の場合、正直言って、「自治体の図書館に行く」という習慣を持たない子が多いです。自分の住む街の図書館がどこにあるのか、はっきりわかっていない子もたくさん・・・。

でも、学校図書館なら、行けると思うんです。その存在を知っていると思うんです。

なので、近所の中学校で学力向上支援スタッフとして働いている友人に問い合わせてみました。

そうしたら、図書室内の支援事業用本棚に置くと快諾してくれました。よかった。

 

ところで、学校の図書室に置くとなると、それなりに本に準備を施さなくてはなりません。

まずは分類シールを用意します。

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図書館の本の背表紙についてるやつね。

日本十進分類法から最適の数字を選んで3桁で表示します。

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ほんとはもうちょっと上に貼りたいところ・・・でも「矢川冬」という名前は筆者がまさに命を削る思いをしながら勝ち取った名前ですから(「もう、沈黙はしない…」第3~4章参照)、極力隠れないようにしたかった・・・。

分類シールを貼ったら、次に「ブックコートフィルム」を貼ります。

ブックコートフィルムとは本を汚れから守るために貼る、透明シールのようなカバーのことです。図書館の本には必ずこのカバーがかけられています。

貼るには少しコツが要るのですが、読み聞かせのボランティアをやっていると、定期的に「ボランティア講座」なるものが開催されて、「ブックコートフィルムのかけ方」について教えてくれます。

なのでマミーさんはこのブックコートフィルムをかけるのがちょっと上手い・・・数少ない私の特技です。

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まずは大きさに合わせてカット。

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端を斜めにカットして、表紙裏側から貼り始めます。静電気を吸いやすい素材なので、周囲のゴミやホコリは徹底的に取り除いてから始めましょう。

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空気が入らないように、定規やハンカチなどで、そうっと滑らすように貼っていきます。

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表表紙、裏表紙まで貼り終わったところ。

上下、余った部分は裏に折り返します。

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裏から見るとこんな感じ。

空気が入ったりフィルムが縒れたりせずにうまく貼れました。

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写真じゃあまりわかんないけど・・・でも手に取るとつるつるして汚れ・傷みに強くなりました。これで本が強く、丈夫になりました。いろんな人が手にとる図書館に置いても長持ちしてくれることでしょう。

 

でもこれだけではちょっと物足りない。

ただ本棚にあるだけではね・・・子どもたちが実際に手に取ってくれなくては。

なのでPOPを書いてみました。

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ちょっとセンセーショナルに過ぎるかも・・・と思いましたが、子どもたちに気づいてもらえないと図書室に置く意味が無いので...。

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「新しい本」のコーナー、一番目立つところに置いてもらいました。

置きながら思いました。

「どうかこの学校には、この本を必要とする子どもがいませんように。

そしてできればたくさんの子どもたちがこの本を読んで、助けを求めている人の存在に敏感になってくれますように。

できれば子どもを虐待するような大人には育ちませんように。」

と。

 

今回、この本をめぐって、わっとさまの行動力に、そしてその影響力に驚きました。

わっとさまの記事を読んでおなじようにあちこちの図書館にこの本を寄贈するたくさんの人たち・・・。

インターネットって、ブログってすごいなあとしみじみ思いました。

 

わっとさまのブログがなければ、私がこの本と出会うこともなかったでしょう。

わっとさまに心からの敬意を捧げるとともに、遠くからではありますが、筆者・矢川冬氏のこれからの人生が少しでも明るいものになるようにお祈りいたします。

 

最後に、断りもなく勝手に言及したことをわっとさまと矢川冬さんにお詫び申し上げます。

もしも差し障りがあるようでしたら、この記事は即刻削除いたします。

そのようにご希望でしたらぜひコメント欄等でお知らせください。

 

長くなりました。みなさま、最後までお付き合いくださってありがとうございました。

 

最後に、矢川冬氏のブログを念のため。

yagawafuyu.hatenablog.com

それから、「もう、沈黙はしない…」の内容については、わっとさまのブログで詳しく紹介されていますので、こちらでさらに何かを付け足すことは控えました。

興味のある方はぜひ、わっとさまのブログをご覧ください。