キツネさんが好きです。でもオオカミさんはもっと好きです。
以前、仲良しのブロガーさんたちと1冊の絵本について語り合いました。
おぼえていらっしゃる方も多いでしょう。
マーガレット・ワイルドとロン・ブルックスの「キツネ」。
セネシオさまがご自身のブログ上で詳しく考察してくださったので、多くのブロガーさんたちがそこに集って、感想などを語り合いました。
楽しかったですねえ・・・。
尊敬するセネシオさまの、「キツネ」についての解説と登場人物への洞察、
そこに集うみなさまの思いがけない感想、「そんな読み方もあるんだ!」という驚き。
私みたいなボケボケな人間には、セネシオさまやみなさまの教養がただただ眩しいばかりでしたが、本来なら入り込めないような魅力的なサロンにこっそり紛れ込んだような心持ちがして、胸がドキドキしたものでした。
あれから、「キツネ」が登場する絵本を見かけるたびに、当時のことを思い出して、楽しかったなあ、と思う日々なのですが、考えてみれば絵本界では「キツネ」の活躍が目立ちますよね。主に悪役で。
やはり家畜を襲うことが多いからでしょうか…。
ただ生きているだけなのにね。それだけ人の生活に近いということでしょうか。
「ヒール」と言えば、キツネに並んでもう1種類、絵本の中で圧倒的な存在感を放つ動物がいます。
そう、「オオカミ」さん。
「キツネ」と「オオカミ」。
絵本界の悪役2大巨頭ですね。
でも、私、「オオカミ」が出てくる絵本って大好きなんですよー。
以前、読み聞かせボランティアの予算で絵本を買うことになって、その選書を引き受けたら、「オオカミ」が登場する絵本がいっぱいになってしまって、
「マミーさん・・・オオカミ好きなんやねえ。」
って言われてしまったくらい。
だって、すごくいい絵本が多いんですよ!「オオカミ」の本って。
なので、今日は「オオカミ」が登場する絵本についてちょっとご紹介。
1.「オオカミと石のスープ」(アナイス・ヴォージュラード著 徳間書店)
ヨーロッパに伝わる民話「石のスープ」を原案に、「石でスープを作ってあげる」と家に乗り込んできたオオカミが、逆にメンドリやそのお友だちの動物たちに「してやられてしまう」までのいきさつを淡々と描いた1冊。
本来「石のスープ」の民話は、誰かと協力し合うことの大切さや、智慧の尊さを説くお話しですが、この絵本では少しばかり趣を異にします。
甘い言葉で近づいて、あわよくばメンドリを食べてしまおうと思っていたのに、自分を招き入れてくれたメンドリとその仲間たちの「善意」に触れてしまったオオカミ。
おかげでどんどん予定が狂ってしまうオオカミの「視線」が、何とも言えないおかしみを誘います。
純粋であること。
無垢であること。
まっすぐな信頼を寄せられること。
そういったものが、最初は悪意の塊であった誰かの心を変えていく物語には、例えば
あまんきみこ作「きつねのおきゃくさま」(←名作ですね!)や
宮西達也作「キツネのおとうさんがニッコリわらっていいました」
などがありますが(そういえばこちらの2作の主人公はキツネだー!)、これらが感動的で道徳的な作品であるのに対し、「オオカミと石のスープ」では、そういった要素はあまり盛り込まれていません。
あてが外れて、早々と歓談の席を抜け出すオオカミ。
悪者になりきれなかったオオカミの背中には、うっかり同情を感じるほどの悲哀があふれていて、絶妙なおかしさが後から湧き上がってきます。
「オオカミは二度とこの村には帰ってこないでしょう」
の結びには、思わず「たはっ!」って笑ってしまいます。
これぞフランスのエスプリ!
シャルリ・エブドの風刺画を見て、
「なにがおもしろいのかさっぱりわからんね。」
と思った日本人(←私を含む)にも、
「エスプリ」というものの本来の意味を忘れたフランス人にも読んでほしい1冊です。
2.「オオカミがキケンってほんとうですか?」(せきゆうこ著 PHP研究所)
この絵本にはいろんな意味で衝撃を受けました。
読者はまずこの表紙の絵の「かわいらしさ」に騙されます。
こんなにかわいい絵ですもの。
たとえ「オオカミ」が出てくるにしても、ほんわか楽しい寓話なんだろうと想像してしまうじゃないですか。
でもその想像は思いっきり裏切られます。
主人公の「ぼく」はお母さんから、
「ウワサや人の言葉を鵜呑みにしてはいけない、ちゃんと自分で調べなさい」
と言われて「オオカミは本当に危険なのか」を自ら調べ始めるのですが、そこで「読みなれている読者」であればあるほど、先走って思い込んでしまいます。
「風評に惑わされず、自分の頭で考えることが大切」
ということが主題なんだろうなって。
でも。
さにあらず、さにあらず。
一番の主題は後半になって現れるのですが、その衝撃と言ったら!
「はっ?!」
ってなって、
「がーん・・・」
ときて、
「うーん・・・」
となります。
え?なんのことかわからないって?
でしょうね・・・でもこの絵本についてだけはネタバレできない!
どうか一度、書店ででも手に取ってみてください。
そして物語の最後で、主人公の「ぼく」が涙ながらに、
「こんど、ぼくもてつだうからね。」
と言ったその心情と決意に寄り添ってみてください。
びっくり仰天すること請け合い。
オススメです。
3.「えほんからとびだしたオオカミ」(ティエリー・ロブレヒト著 岩崎書店)
こちらは本当に楽しい1冊。
本棚から落ちた本のページからこぼれ落ちてしまったオオカミが、物語に戻ろうと悪戦苦闘する一夜のお話し。
手当たり次第に本の中に飛び込んでは、
「登場が早すぎる!」
とか
「君の世界じゃない!」
と邪険にされて、しかもこちらの世界ではふとっちょ猫に追いかけられて大ピンチ。
最後に紛れ込んだ絵本で「赤ずきんちゃん」に遭遇したオオカミ。
その必死の売り込みには思わず笑みを誘われます。
子どものころ、眠る前になるといつも考えることがありました。
私が完全に眠りにおちた後、おもちゃはおもちゃ箱から、絵本の登場人物は本棚から飛び出してきて、お部屋の中で楽しく遊んでいるのではないだろうかと。
考えれば考えるほど、その想像は現実味を帯びてきて、なんとかそんなシーンを見てみたいものだと、毎日「たぬき寝入り」をくりかえしたものでした。
この絵本を読んでいると、幼かったころのそんな思い出が、ページの間からオオカミの姿を借りて現れてくるような気がします。
ユーモアあふれるベルギー生まれのこの1冊を、敬愛するセネシオさまに。
おまけ1。
「石のスープ」を本来のテイストで読んでみたい方には、
「せかいいちおいしいスープ」とか、
「しあわせの石のスープ」なんかがオススメ。
おまけ2。
もちろん魅力的な「キツネ」は他にもいっぱい。
「こぎつねコンとこだぬきポン」
相手のことを知らないからこそ生まれる偏見と差別感情。
でも、子どもたちの「友だちになりたい」というまっすぐな思いが、大人たちの凝りかたまった悪感情を取り払っていきます。
「橋を架ける」ことの意義をあらためて感じさせてくれる1冊。
同じく無知による偏見と差別を乗り越えようとする、
マルタ・カラスコ著「むこう岸には」
なんかと一緒に読むと、味わいもひとしおです。(キツネは出てきません)
あと、「ごんぎつね」「手ぶくろを買いに」でおなじみ新美南吉のもうひとつの「きつね」もいいな。
子を思う母親の心情が痛いほど伝わってくる1冊。
日本人の理想の母親像がここにあります。
それから安房直子「きつねの窓」も捨てがたい。
ささやかな失敗によって、とんでもなく大切なものを失くしてしまう。
そんな経験を一度もしたことがない人なんているでしょうか。
大切なものを一瞬にして失ってしまった時のあの焦燥感、呆然とする気持ち。
慕わしいものをもう一度、と願う思い。
二度と戻ってこないものを、人を、いつまでもあきらめられずに記憶をまさぐる夜の切なさ。
そんな思いを抒情的に紡いだ絵本。教科書に掲載されたこともあるお話しですので、記憶に残っている人も多いのでは。
うっかり手を洗ってしまった主人公の気持ちが、いつまでも心に残る1冊です。
おまけ3。
もちろんオオカミさんだって負けていません。
宮西達也氏の描くオオカミはいつだってとっても魅力的。
この「おおかみペコペコ」のユーモラスなことと言ったら!
読み聞かせでこの本を読むと、子どもたちはいつも特上の反応をしてくれます。
「あらしのよるに」で一世を風靡したきむらゆういち氏の生み出す「オオカミ」シリーズも好きだなあ。
強がりでひとりよがりなところもあるのに、どこか憎めないオオカミ。
オオカミなんだけど、ちょっとかわいいって思ってしまう、得難い個性のオオカミに、ちょっぴり元気がもらえます。
それから、もちろん「3びきのかわいいオオカミ」。
「3びきのこぶた」のパロディ絵本ですが、これほどのクオリティを持つパロディは珍しい。
「3びきのこぶた」の主題が「怠けずに、手を抜かずに努力することが大事」であるならば、この「3びきのかわいいオオカミ」の方のそれは、
「人とつきあうとき、心に壁や垣根を作るな」
でしょうか。
同じようなお話しなのに、これほど鮮やかに主題の転換がなされている本に出会うと、あっ!と驚くと同時に、たまらなくうれしくなってしまいます。
今やとっても有名になってしまった絵本ですが、未読の方がいらしたらぜひ。
子どもにはちょっともったいない、装丁がとっても素敵な「オオカミ」も。
エミリー・グラヴェット著 「オオカミ」
この絵本はとにかく開けてみて楽しい絵本です。
見て、この奥付。
ポストカードの形になってるんですよ。
なんておしゃれ。
それにこんな貸し出しカードつき。
今では小学校図書館でも本はバーコード管理が当たり前。
本の後ろについている貸し出しカードなんて、もうすぐ絶滅してしまうのでしょう。
この本にはそんな絶滅危惧種のカードが最初から装填済み。
手に取ると思わずにっこりしてしまいます。
最後に。
内田麟太郎著「ともだちや」
絵本界の2大ヒール、キツネとオオカミが友だちになるお話しですから、嫌いになんてなれるはずもありません。
友だちになるのに、つまらない小細工なんかいらない、ただひたむきに、相手と一緒にいたいと願う素直な気持ちを持てばいいんだという単純なことを、いつも思い出させてくれる絵本です。
実は先日、読み聞かせをしに学校に出かけてみたら、新しいメンバーが見学にいらしていました。
お仲間が増えることを、みんなで一緒に喜びました。
時間がなくて、ゆっくりお話しできませんでしたが、「仲良くなりたい」光線をいっぱい出してきましたので、すぐに打ち解けられると思います。
この年になっても、新しいお友だちができるのはうれしいことですね。
ちなみに、その新しいメンバーが見学する前で読んだ絵本はこちら。
ジョン・クラッセン著「みつけてん」
ジョン・クラッセンの「どこいったん」「ちがうねん」に続く帽子シリーズの最終巻。
この絵本、めーっちゃ好き!!
は?
オオカミじゃなくてカメじゃないかって?
・・・いいでしょー、別に・・・
カメさんも好きなんですっ!
おしまい。