今年の「課題図書」、小川洋子だって!
先日、今年の「課題図書」が発表になりました。
「課題図書」に、取りたてて強い思い入れがあるわけではありませんが、
でも今年は違います。
なんとびっくり、今年は「小川洋子」氏の初めての絵本が課題図書に!
「ボタンちゃん」小川洋子:著 岡田千晶:絵
小川洋子初の絵本。子どものころ、はじめて考えた物語。ボタンちゃんとボタンホールちゃんはふたりでひとつ。いつもなかよしです。ところがある日、ボタンちゃんをとめていた糸が切れてしまって…。
小学校低学年の部の課題図書ですから、5分もあれば読み終わります。
朗読しても8分くらい。
とても短いお話しですが、
けれど、その世界観は紛う方なく「小川洋子」なのでした。
どこかでひっそりと「失われる」ものたち。
そことは違う軌道上で「収集される」ものたち。
抗う術のない喪失と、誰かがひそやかに行っている収集とが、どこかでひっそりとバランスし、遙か彼方で水平を保ち、この世をかろうじて均衡させている・・・。
いつも私が勝手に「喪失と収集の作家」と呼んでいる、氏らしい絵本を手に取った時、
「ああ、やっぱり」と、
うなずくような気持ちになりました。
小さな女の子、アンナちゃん。
かつてアンナちゃんが愛した「ものたち」は今ではすっかり忘れられ、
お部屋の片隅で泣いています。
アンナちゃんのブラウスの「ボタンちゃん」は、彼らをそっと慰めます。
「アンナちゃんはもうこんなに大きくなったのよ、あなたのおかげね。」と。
やがて、ボタンちゃんもなかよしのボタンホールちゃんや、
忘れられたものたちと一緒に、「思い出の箱」に納められる運命です。
いつの日か、アンナちゃんにも、忘れられてしまうのでしょうーーー。
たくさんのものたちを愛し、愛されて子どもたちは成長します。
いずれ忘れ去ってしまうとしても、
その記憶は子どもたちの「愛する能力」を育みます。
この世の中に存在する、自分にとっての「特別な何か」を選り分け、それを大切に守り抜こうとする能力を。
「思い出の箱」の中の、忘れられたものたちの、ひっそりとした存在は、
だからこそ、読んでいる私の胸を何度も打たずにはいないのです。
私自身の中にも、「思い出の箱」があるのでしょう。
それを取り出して見ることもしない日常と、
いずれ、私自身が誰かの「思い出の箱」に入ることになるのかもしれないという怖れ。
その時に、
私はこの絵本の「思い出の箱」の中のものたちと同じように、
誰かの幸福と無事を、ただつつましく祈ることができるでしょうか・・・?
小さな子どもたちに向けた、とても短い物語。
でも、とても美しく、考えさせられる物語でした。
そろそろ、どの書店にも、課題図書が山積みになる季節です。
お見かけになりましたら、ぜひ手に取ってみてください。
絵本のもうひとつの主役、岡田千晶氏の絵も、繊細で秀逸です。
ちなみに・・・。
夏休みの拷問、もとい、「読書感想文」の宿題にも、この絵本は最適ではないかと思われます。
低学年のお子さまだと、なかなか自力で読書感想文は書きにくいものですが、
この絵本であれば、ご家族の協力、指導という名の「手出し」「口出し」がしやすいのではないかと思うのです。
つまり、お子さまと一緒にこの絵本を一読した後、
お子さまご自身の「思い出の箱」について、お話しなさればいいのです。
「あなたが小さかった頃は、この毛布がないと眠れなかったのよ。」
とか、
「この靴下じゃないとお出かけしてくれなかったのよ。」
とか。
あるいは、お子さまの思い出の品が、幼い弟妹の元で今も現役で使われているとか、
誰かのもとに貰われていったとか、
そんなエピソードを下敷きに、
「お母さんと話しをしているうちに、
普段は忘れてしまっているけれど、だから、目には見えないかもしれないけれど、
自分を大切に思ってくれる思い出の「何か」に、ありがとうの気持ちになりました。
これからは、自分の身のまわりのものを、もっと大切にしたいと思います。」
なんていう結論を導き出せばいいのです。(強引に導くのです、そこに!)
ほら、なんか、感想文が簡単に書ける気が!・・・しません???
・・・感想文なんかあるから、本がキライになるのでは?と毎年憂鬱な夏を迎えられる小学生の保護者のみなさま、お気持ち、お察しいたします。がんばってくださいね・・・。
さてさて、みなさま。
ずいぶんと久しぶりの更新となりました。
前回の更新の後、パソコンが壊れてしまい、新しいパソコンの購入に手間取りました。
そうこうしているうちに、ルーターもダメになってしまい、新調しなければ、と思ったところに食器洗浄機が壊れました・・・(←いや、食洗機はブログとはなんの関係もありませんけどね、でもね、ショックだったの・・・。すごーく。)
その上、同居している母が病を得て、なかなか回復しない状態が続き、
どうにも気鬱だったところに、
私自身の個人的な物思いもあって、なかなかブログに向き合う気分になれませんでした。
母もまだ全快とはいきませんし、
以前と同じようなペースでブログを続けていく自信はまだ持てない状態です。
ただ、またこうして、ここに戻って来られましたのは、
みなさまのあたたかい励ましと支えがあったからこそです。
どうしても、いつかみなさまにひとことお礼を、と思う気持ちが、
私を今日ここに導いてくれたのだと思います。
お休みしている間も、そこここに置かれたやさしいお気づかいのお言葉、
本当にありがとうございました。
また、
今回久々に家族に病人が出て、しみじみと思いました。
機械などは、なにがいくつ壊れたとしても、なにほどのことがあるでしょう。
健康こそが、もっとも大切で、得がたいものです。
暑い季節が参ります。
どうかみなさまもお身体を大切になさって、お健やかにお過ごしくださいますよう、心よりお祈り申し上げます。
参考までに・・・今年の課題図書。