終戦記念日に読みたい、戦争を考えるためのオススメ絵本。

みなさま、こんばんは。

今年も8月15日が巡ってきました。

 

私が子どものころは、8月になるとテレビや新聞で、先の大戦の話しが盛んに取り上げられたものでしたが、最近ではめっぽう少なくなってきましたね。

 

かくいう私も戦争についてなにを知っているわけでもありませんが、

それでも、忘れない努力や知ろうとする努力をし続けようという決意を新たにするのに、8月ほど最適な月はないのかもしれません。 

 

ということで今日は、戦争を考えるためのオススメの絵本を1冊、ご紹介したいと思います。

もしも機会があれば、お子さまやご家族と一緒に手に取ってみてください。

 

「ななしのごんべさん」田島征彦:吉村敬子著 童心社

戦場に駆り出された父が「ななしのごんべさん」として死んでしまったと悲しむもも子。

でも、彼女もその家族も、空襲によって、誰にも探されず、身元もわからない「ななしのごんべさん」として亡くなってしまうのでした。

 

この絵本の題材は1945年7月9日から10日未明にかけて、大阪府堺市を襲った空襲です。一家が全滅してしまい、誰ともわからない死体となってしまった市井の人々。その悲劇について描かれた絵本ですが、私はこの絵本の主人公「もも子」の境遇が気になって仕方がありません。

 

もも子」には「脳性麻痺」という障がいがあります。

不自由な身体でありながらも、もうすぐ小学校に入学するのを楽しみに過ごすもも子。

その彼女の元に、ある日「就学猶予」の通知が来ます。

 

「小学校には通わなくてよろしい」

 

その知らせはもも子と、もも子の母親双方を強く打ちのめします。

 

もも子は思います。

 

「(学校に行けないのは)私が戦争の役に立たへんからやろか。」

 

障がいがあるから、戦争の役に立たないから、だから学校には行けないのだろうかと落ち込むもも子。

 

 

もちろん私にも、行政側が「就学猶予」に至ったその「理屈」はわかります。

 

絶え間なく続く空襲により、学校内の安全も確保されない状態では、ひとりで逃げることもできない児童の受け入れは困難だろうということは容易に想像ができます。

けれども、「修学猶予」という言葉が、私をつくづくイヤな気持ちにさせるのです。

 

それは実のところ、

「受け入れるのは困難です」

「受け入れ態勢が整っていません」ということであり、

だから、次に続く言葉は本来なら、

 

「(受け入れられなくて)ごめんなさい」

 

であるはずなのです。

それを「修学猶予」とは一体どういうことでしょう。

学校に来させないようにしているくせに、それがまるで「温情」であるかのような言い草。

 

これを「おためごかし」と言わずして、何をそう呼べばいいのでしょう。

 

「私も学校に行きたいのに。」

 

もも子のそんなセリフは、前が見えなくなるほどの涙なしには読めません。

 

障がいがあるからと、本来受けられるはずの教育の機会を奪われたもも子。

けれども、そんなもも子から、戦争はさらに父を、そして彼女の命さえも容赦なく奪っていくのです。

 

タイトルからも明白なように、この絵本の主題は「空襲の恐ろしさ」「戦争によって奪われた命」についてです。

けれども、この絵本は戦時下に障がいを抱えて生きることがどういうことであったのか、

また、戦争によってどうしようもなく変質していく人の悲しみについても鋭い考察が加えられています。

そのせいか、物語としてこの絵本を見たとき、どうしても主題となるべきテーマが弱くなり、話しのまとまりに欠けるきらいがあります。

なので正直なところ、この絵本は、「ちいちゃんのかげおくり」「かわいそうなぞう」「おこりじぞう」のような、戦争をテーマにした名作絵本群の一翼を担うことはできそうにないかも、という気がしないでもありません。

 

しかしながら、仮にもも子が生きて目の前に存在していたとしたら、話しの筋立てや主題の軽重なんてことを念頭に置いて語るでしょうか?

 

「戦争中はね、あんなことがあってん、こんなこともあったわ、そういえばあんなことも言われたわ。」

 

と、話があっちに行ったりこっちに行ったりするに違いありません。

この絵本は、そんな戦争体験者の「生の声」や臨場感を強く感じさせてくれる1冊です。

 

また、「じごくのそうべえ」でおなじみ、田島征彦氏の絵の迫力が鬼気迫る1冊でもあります。

特にラストシーンは空襲のすさまじさ、母を呼びながら命を落とす子どもたちの悲哀が眼前に広がり、冷静ではいられなくなります。

 

戦争の愚かさ、

余裕がなくなった人々の残酷さ、

「勝つため」と言いつつ、弱いものを排除しようとするお役所根性のさもしさ、それをおためごかしな言葉でごまかすいやらしさ、

そんな中でも誰かを守ろう、寄り添おうとする人間の心の動き、その美しさ。

 

読んだ後、しばらく頭の中がしーんとするような絵本です。

 

たった70余年前に、こんなことが日本中で起こっていたことに悄然とします。

読んで楽しい絵本ではありません。

けれども一度は読んでおきたい絵本。オススメです。