小学生でも空気を読むんだなと思った日~絵本作家の講演会にて。

みなさま、こんばんは。

 

小学校での読み聞かせボランティアを始めて、もう10年以上になります。

基本的には娘がお世話になっていた小学校で活動しているのですが、近隣の小学校のボランティアさんたちとも交流があります。

一緒に絵本展をやったり、校区が同じ中学校でお手伝いをしたり、合同の会議・交流会を開催したり。

ある小学校で大きなイベントがあるときなんかは、お誘いをいただくことも。

で、最近、別の小学校のボランティアさんから絵本作家を招いて講演会を行うのでよければどうぞ、と声をかけてもらったので、参加してきました。

 

招かれた絵本作家さんは中川洋典さん。

エネルギッシュで「濃~い」絵を描く作家さんで、最近、道徳の教科書に作品が掲載されて俄然注目が集まっている方です。

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「きいてるかいオルタ」(童心社

道徳の教科書に取り上げられた絵本。

「自分を変えたい」と思う気持ちの切実さ、「変わろう」とする意思の強さを切々と語る絵本。読んでいると子どもの健やかな成長を見守っている気分になります。

 

講演会の当日は、ちょっと早めに学校に着いたので、高学年の子どもたちに中川氏が自作の絵本を読んであげているところに間に合いました。

5・6年生向けに読まれていた本は、

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「ミカちゃんのひだりて」(ひかりのくに社)

 

これがまたいい絵本なんですよ。

「みんな一緒、平等、公平」というお題目にあふれた学校で、人とはちょっと違った個性を持つ誰かに出会い、戸惑いながらも友情を育む子どもたち。

他のおともだちとは「ちょっとちがう」ミカちゃんから目が離せなくなってしまうユリちゃんの心情に寄り添っているうちに、いろんなことを考えさせられる1冊です。

 

クラスのみんなが発表会の練習をしているのに、ひとり、降り続く雨を見ているミカちゃん。

そんなミカちゃんに「たつし」が怒鳴ります。

 

「おまえな、ちょっとは くうきよめや!

いつでも ひとりで ぼぉーっとして、

ひとと ちがうことばっかり してるやないか。

そんで ええと おもてんのか!」

 

教室は凍りつき、みんなは「だまったまま、ひいて」しまいます。

たつし君に対して、ひどいと思う気持ちと、たつし君の言うことももっともだと思う気持ち。

ユリちゃんはその気持ちの間で揺れるのですが・・・。

 

読み聞かせが終わった後、中川さんは自ら子どもたちに聞きました。

「どんな風に思った?」

って。

 

高学年の子どもたちですから、なかなか手は上がりません。みんな恥ずかしいのでしょうね、お互いに目を合わせて、いかにも「お前が手をあげろよ」なんて雰囲気で、互いの肘をちょんちょんつつき合っています。

そうしたら、中川さんが一番前に座っていた男の子を指さして、「きみ、どう思った?」と直接質問なさいました。

 

そうしたら、その男の子、こんなことを言ったのです。

 

「たつしは「空気読め」って言ったけど、そんなことを言うたから、みんなが凍って教室の空気が悪くなったんやん。結局、一番空気読めてないのはたつしやん。」

 

びっくりしました。

「へ?」って感じ。

で、その後で、「ああ・・・なるほど、そういう見方もできるよねえ。」としみじみ思いました。

 

中川さんもちょっと「虚を突かれた」ようで、

「そんな感想は今まで出たことがなかった」

とおっしゃいました。

 

「空気を読む」ってよく聞きますけれど、私、彼のその言葉を聞いて、「空気を読む」って実は、相当高度な技なんじゃないだろうかとあらためて思いました。

集団生活をしていて、みんなのために「空気を読もう」としたら、誰かを傷つけることもある。回りまわって、それがみんなを不幸にすることも。

 

「空気を読む」って、だから、実はとても高度で、常用するには非常に危険なテクニックなんじゃないかな。

それでも、今の子どもたちは、そんな難しい技を上手に使うことを、小学生のうちから強要されているのかもしれない。

中川さんと子どもたちの会話を聞いて、そんな風に思いました。

この一連の会話を聞けただけでも、今回の講演会に参加してよかったなあと。

 

大人向けの講演会が終わった後、中川氏が持ち込んだ作品の展示・販売会も行われました。

私も購入してサインしてもらいましたよ!

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飛行機がコワくて乗れない私にちょっとだけ勇気をくれそうな本。

販売・サイン会が行われる時間になると、お財布を持った先生たちが何人もお部屋に飛び込んで来られました。

 

「絵を描くのが苦手で図工の時間もなかなか描こうとしない子が、講演会の後から黙々と絵を描いてるんです。やっぱり原画を見せてもらったからかしら、ホンモノの威力ってすごい!」

 

「1年1組のみなさんへ、って書いてください!

さっきの絵本、もう一回読んで、ってすっごいせがまれてるんです~!」

 

ちょっと興奮した先生たちが、サインをしてもらった絵本をうれしそうに、大事そうに抱えて戻っていかれるのを見て、ああ、この学校の子どもたちは幸せだなあって思いました。

教え子のために少しでもプラスになるようにと、こうして自腹で絵本を買って、また読んであげようとするんですものね。

昨今、学校の先生に対する視線はどんどん厳しくなっているような気がしますけれど、ほとんどの先生たちは、こうして毎日一生懸命なんだろうという気持ちを新たにしました。

 

学校で絵本作家の講演会を開く。

図書のボランティア活動の中でも、かなり大変な作業になります。

学校との打ち合わせや授業時間との調整、外部からの来客者の誘導やお部屋の飾り付けなども。

よほどの情熱がないとできないなあ、と横目で見ていたら、私が所属しているボランティアグループの現リーダーが、

「いいなー、うちでもやってみたい。」

とちらっとつぶやきました。

 

しょ、正気だろうか???

 

ちょっとコワい・・・。

・・・私は招待されて見に来るくらいでちょうどいいんだー!