せっかくお金持ちだったのにね…モテなかった後輩のこと(子育ての思い出・4)
またまた昔の話になりますが。
大学を卒業後、ある企業で働いていたころ、隣の課に「もんのすごい」お金持ちの男の子が入社してきたことがあります。なんでも大阪の一等地にいくつも自社ビルを抱える会社の御曹司とかなんとか。
私が勤めていたのはどことなく昭和の香りが残る旧弊な会社で、短大卒の女子社員は男性社員の結婚相手要因としての色合いが濃厚でしたので、隣の課の若い女性たちは、その男の子の噂に接してからどことなく色めき立っていました。
で、最初の1か月ほどは、終業後にみんなでごはんを食べに行ったり、飲みに行ったり、それなりに楽しくやっているようだったのですが、ふと気がつくとあれほど盛り上がっていた女子社員のテンションがだだ下がり。
どうしたのかなあと思って、隣の課の同期入社の男の子に、残業ついでに食事に行った時に聞いてみました。
「盛り上がってたのに、最近静かやねえ。どないしたん?」って。
そうしたら。
「あの新入社員さ、好き嫌い多いねん。食べ物の。」
は?好き嫌い?そんなん誰にでもあることやん?
「いや、あれはちょっとひどい。てか、かなりひどい。食べられるものが少なすぎるし、あれがイヤ、これもムリ、それもキライって言いすぎ。」
ふーん。それで女の子たちから総スカンくらってるの?
「そもそもな、一般職の女の子たちって、ほとんどが縁故採用やん?もともと家がお金持ち、って子が多いからさ、そこまでしてお金持ちと結婚したいわけでもないんやろなあ。一緒に楽しくごはんも食べられへんようなのは論外みたいやで。」
なるほど、なるほど。
で、そのころから、隣の課の雰囲気はまたちょっと変わっていきました。
もとから女性の多かったその課では、帰りにお茶をしたりごはんを食べに行く習慣の多いところで、終業時刻が近づくと、
「帰り、どこ寄る~?」
なんて和気藹々とみんなで盛り上がっていたものなのですが、それがすっかりなくなって、ロッカールームや給湯室で女の子たちがコソコソと相談する姿を見かけるようになりました。
理由はと言えば、その新入社員を誘うのがイヤだから。一緒について来られるのもイヤだから。
私ねえ、「中学生かよ・・・」って閉口しましたけれど、
「だって、ナスビ食べてたら、「うわ、ナスビ食うんすか!」とかいちいちうるさいし、逆に好きなものが大皿に乗ってたら、ひとりで全部食べちゃうし、とにかくもう無理。絶対にムリ。あの子に合わせてたら行けるお店なんかほとんどないんやもん!」
と言われて、うーん、と唸ってしまいました。
その新入社員が嫌われてしまうのは、好き嫌いが多いから、というよりも、「食事中のマナーの悪さ」や「気づかいのなさ」のせいのような気がしましたけれど、でもあまりにも「好き嫌い」が多いと、だれからも誘ってもらえなくなって「さびしくなってしまうんだな」としみじみ思いました。
にも関わらず、うっかり偏食家の夫と結婚してしまった私。
せっかくお金持ちなのに、ちっともモテずにあっという間に転勤していった例の新入社員や、自分の夫のことを考えると、「食べ物の好き嫌いは人生をハードモードにする、絶対!」という感を強くした私は、子育ての第一目標を「好き嫌いをなるべくなくす!」ことにしようと決めました。
今日は子どもが「好き嫌いなくなんでも食べる」ようになるために私がやったことのあれこれについてお話ししたいと思います。
意外と効きます。
もしも子育て中のお母さまがいらしたら、ぜひぜひチャレンジしてみてください。
1.「ワンワン」に頼る。
小さいお子さんなら誰もが知ってる、NHKの「いないいないばあっ!」。
それに登場するこの「ワンワン」。当時は番組内で、しょっちゅういろんな野菜と踊っていました。
ある時、「ピーマン」と踊っていたワンワンを見た私は娘に「これなあに?」と聞きました。娘はすかさず「ピーマン!」と答えたので、私は娘をバギーに乗せてスーパーに行き、袋に入った売り物のピーマンを見せてまた「これなあに?」と聞きました。
娘はまた「ピーマン!」と答えたので、そのピーマンを買って帰宅、今度は娘の目の前でピーマンをみじん切りにして、小さくなったピーマンをつまんで娘に聞きました。「これなあに?」って。
で、料理をしている間、ずっと娘と「これなあに?」「ピーマン!」を繰り返し、
できあがった料理を娘の口に入れた後で聞きました。
「ピーマン、どこ行ったの?」って。
そしたら娘はモグモグしている自分の口を指さしました。
ごっくん、と飲みこんだ後にも聞きました。
「ピーマン、どこ行ったの?」って。
娘はちょっとだけ頭をかしげて考えているようでしたが、お腹を指差しましたので、こんなに小さいのに、食べたものがお腹に入るってわかるんだ!ととても驚いたことを覚えています。離乳食後期のころだったと思います。
自分で育てた野菜ならよく食べるって言いますけれど、都会ではそれはなかなか。
でも、料理の過程を見せるだけでも意外と食べてくれる気がします。
2.味見作戦。
料理の間にちょっとだけ「味見する?」って聞くと、うれしそうになんでもよく食べてくれました。
これはほんとによくやったなあ。
ちょこっとだけ、特別に食べさせてもらえるものって、大人でもうれしいですものね。
にんじんや豆腐、ホウレン草などの青菜も、この味見作戦のおかげか、抵抗なく食べてくれるようになりました。
3.つまみ食い作戦。
夫の出勤日の夕食はなかなか一緒にとはいかなくて、夫の夕食は帰宅後、別に用意していたのですが、夫が夕食をとっていると、娘がちょっと欲しがるのです。
自分の夕食から2時間は経っているので小腹が空くタイミングだったのでしょう。
私は娘が欲しがれば、ちょっとだけあげるようにと夫に頼みました。
自分の食事の時には食べようとしなかった大根も、夫にひとくちもらうと喜んで食べました。
大根はほんとに手ごわかったのですが、「つまみ食い作戦」のおかげで食べられるようになりました。今ではおでんの大根も大好物です。
4.根気。
あとはもう根気。ほんとにそれだけ。
なだめてすかしておだてて機嫌をとって。
ほんとに疲れることですが、空を飛んで虫を捕まえるツバメさんよりは楽チンなはず!と自分に言い聞かせ、子どもを根負けさせるつもりで臨むしかありません。
「いらち」で基本的に短気な私は、実のところ、子どもの食事につきあう度に「苦行かな?」って思っていました。お料理が得意ってわけでもありませんし。
でも、好き嫌いなくなんでも食べてくれるようになった娘の食事作りは本当に楽チンで、今になって、あの頃の努力は無駄ではなかったと痛感しています。
実はひとつだけ、克服できなかった食べ物があって、それが「餡子」なのですが、それも「あれだけやってダメだったのだから、もういいや。」と肯定的に納得できています。
子育てって、あとからあとからいくらでも後悔が押し寄せてくるものですが、ひとつくらい「やれるだけのことはやった!」と思えることがあると、少しだけ気持ちが楽になるものです。
子どものため、というよりも後々、自分にできる言い訳をひとつ用意するのだと思って、がんばってみるといいかもしれません。
おまけ。
この記事の下書きを読んでいた夫が言いました。
「お金持ちの話って言うから、今回は俺、関係ない!って思ったけど、「好き嫌い」かあ・・・やっぱり俺への文句やん!」
って。
そんなこと言うならコンニャクもイカも黙って食べてくれればいいのに。(←文句)
最近は娘に「パパ、好き嫌いしちゃいけません。」と叱られている夫。
やっぱり好き嫌いって少ない方がいいですよー。